終身雇用と年功序列は、これまでの日本企業に特徴的な労働慣行でした。企業が生涯(入社から定年まで)に渡って雇い続けることで従業員は仕事を安定させることができますが、その一方で人材がひとつの企業に固定される傾向を生みました。一度、店舗やレストラン、工場、あるいは企業に就職すると、そこで長期間働くことになる傾向と言われています。これは、特定の業界に関する知識やスキルを十分に習得することを可能にする一方で、業界や業種を変えて転職するためのスキル取得を難しくしています。
例えば、サービス業から事務職への転職を希望する人がいたとしても、企業側が求めるオフィスワークのスキルセットを身につけていないことがあります。日本の人材派遣会社ではこれまで、多くの事務職の方を企業に派遣してきました。しかし、すでに事務職での就業経験のある人が派遣されるケースがほとんどであり、これからは、まだ十分なスキルや資格のない人にスキルアップ研修とキャリア開発講座を提供し、異なる職種からのキャリアチェンジを支援する必要があると考えました。リクルートグループの人材派遣会社であるスタッフサービス・ホールディングスでは、事務職の常用型派遣「ミラエール」を通じて、事務職の経験がほとんどない、あるいはまったくない人たちの長期的なキャリア形成を支援しています。ITスキルやビジネスマナーを習得できる入社前研修だけでなく、有給の出産・育児休暇や育児休業など、福利厚生も付与しています。従来の派遣社員にはない、働く意欲のある人たちの人生が一変する可能性をもたらそうとしているのです。
ミラエールが社会に与えるインパクト
ミラエールが支援する方々の中には、小売業やサービス業の現場スタッフから事務職への転職を希望する方も多くいます。きめ細やかなカスタマーサービスの提供が求められる業界ですが、事務職として働く場合は派遣契約での雇用となるケースが多い状況です。派遣契約の場合、派遣先の業務内容によるところもあり、専門的なスキルの習得が難しい状況も発生しがちです。例えば、仕事をしながら子育てをするワーキングマザーが事務業へのシフトを希望する場合に、本人が望むようなキャリア形成が難しい状況もありました。ミラエールでは、こうした方々に対しても、業務に必要なスキルアップ研修を提供し、キャリア形成を支援するための継続的な雇用を提供してきました。ミラエールの利用者は4,000人を超えていますが、サービス利用者の仕事や生活に対する満足度調査では、良い結果が表れています(※)。
例えば、ある調査対象者のグループでは、サービス利用後、仕事への満足度が上がりました。「グループ1の1年未満の利用者」は、利用前の1年間の仕事に「満足」または「どちらかというと満足」していた人が約34%だったが、利用後約65%に。「グループ2の1〜2年の利用者」は、利用する以前の3年前は約32%だった満度度が、利用後約60%にまで上昇しました。
さらに、ミラエールのサ ービス利用者は、転職後の新しいライフスタイルにも満足を感じています。以前、ある調査では「グループ1の1年未満の利用者」のうち、利用する1年前に生活に「満足」、または「どちらかというと満足」と回答したのはわずか約33%だったのに対し、利用後約66%に。「グループ2の1〜2年の利用者」は、利用する以前の3年前は約38%だった満度度が、利用後約73%にまで上昇しました。
仕事だけでなく、生活全体における幸福度もまたミラエールのサービスを利用後、高まりました。「グループ1の1年未満の利用者」のうち、利用前の1年間の生活に関する幸福度として「満足」または「やや満足」していた人が約49%だったのに対し、利用後の約72%へと上昇。「グループ2の1〜2年目の利用者」は、利用する以前の3年前は約48%だったものが、78%と なりました。
今回の調査・分析を実施したソーシャルバリュージャパンの代表理事である伊藤健氏は、「ミラエールはキャリアチェンジだけでなく、長期的なキャリア開発の機会、また無期限の雇用契約を提供することで新しいワークスタイルの実現を支援しています。そのことは従業員の幸福と満足、そして長期的に考えれば、社会的価値を生み出すワークスタイルの実現にもつながるでしょう」と述べています。日本では人口減少と高齢化による深刻な労働力不足に直面していますが、事務職へのキャリアチェンジを促進することで、ホワイトカラーの労働力不足を解消する一助になると考えています。
「ミラエールが見つけてくれた、私のポテンシャル」
ある従業員はミラエールを利用して仕事を切り替えたことで、ワーク・ライフバランスと仕事の満足度が大幅に向上しました。正社員として働いていた時と同様の福利厚生や手当てを受けられ、スキルアップ研修も充実させることで、より幸せを感じ、生活に満足するようになったのです。
また、吹浦唯さんはミラエールと出会う前、アパレル販売に携わっていました。「フルタイムで店長として働いていましたが、キャリアアップは困難だと感じ、転職することにしました。当時、私は27歳で事務経験は一切ありませんでした。転職活動が上手くいかず、希望を失いかけていたときにミラエールを知りました。そこで業務の流れを学ぶことから始め、今ではチームリーダーとして働いています。正社員の同僚と同じ立場にもあり、仕事にやりがいを感じています」。
小林美樹さんも、以前はパートタイムのアパレル販売員として働いていました。高校卒業後、すぐに働き始めた彼女は、友人たちが大学を卒業し、就職していく姿を見て、自分だけ取り残されたように感じていたそうです。そんな彼女は現在、企業で採用アシスタントとして働いています。
「大学を卒業していないと東京の会社に就職するのは難しいと思っていました。事務スキルもなかったので不安でしたが、ミラエールは私のポテンシャルを見いだしてくれたのです。今の会社で働き始めて3年が経ちましたが、その間にもいろんな人が続々とミラエールを経て入社してきます。ミラエールは会社からも信頼されていると感じています」。
※調査期間および対象人数:2019年5月実施のミラエール在籍者を対象としたインターネット調査。945名から回答。