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リクルートに見る、フレームワークのなかの自由:ハーバード大学経営大学院 ランジェイ・グラティ教授

エキスパートから見たリクルートグループ

ハーバード大学経営大学院 ランジェイ・グラティ教授から見た、リクルートグループの考察をご紹介いたします。

「自分の仕事を自ら自由に決めることができ、かつ仕事を通じてインパクトを与えていると感じられると、人はやる気を出し、コミットする」

私がリクルートグループに興味を持ったのは、ベンチャー企業のスケール方法を研究しているときです。リクルートマーケティングパートナーズ(現 株式会社リクルート)の山口文洋さんは、『スタディサプリ』という教育関連サービスを立ち上げ、当初3人だったメンバーを数年で1,000人規模にまで増やし、しかも一人ひとりに強い目的意識を持たせていることを知りました。

私は東京を訪れ、リクルートグループの経営者たちにインタビューを行いました。そして、リクルートには新しいビジネスを生み出すためのユニークな方法があること。加えて、そのアイデアをビジネスとして成立させ利益を上げるだけでなく、社会をより良くするレベルまでスケールアップさせることに一貫して成功している、ということを見出したのです。

ハーバードビジネススクール ランジェイ・グラティ教授

ハーバードビジネススクール ランジェイ・グラティ教授

従業員の起業家精神を育むフレームワーク

1960年創業のリクルートには、企業、行政、教育、マスコミなど、さまざまな分野で活躍するOBOGが多くいます。その背景にはリクルートが、高い意欲と成功への強い意志を持った、自発的な人材の採用を大切にしてきたことがあるでしょう。しかし、リクルートの従業員が起業家精神旺盛なことで知られる理由はそれだけではありません。採用された従業員には、経歴や経験に関係なく、かなり早い段階からビジネス創出の機会が与えられます。日々の仕事のなかで「何がしたいのか」「なぜここにいるのか」と頻繁に問われ、自ら考え、判断する力を養うのです。

リクルートには、従業員が自分のアイデアを実際のビジネスにつなぐための具体的な道筋が用意されています。社内のビジネスプランコンテスト「Ring」や、KPIの活用、「Will-Can-Must」と呼ばれる評価システムによる従業員の志の明確化などです。例えば「Will-Can-Must」の「Will」は現在の能力、「Must」は必要な目標、「Can」はその差をどう埋めるか、の意。リクルートの従業員は、会社が用意したフレームワークのなかで、起業家のように自由に考え行動することができ、そのようなフレームワークがあるからこそ、社内から多くの起業家が生まれ、成功しているのです。

企業利益と社会的価値を接合するフレームワーク

しかし、このようなやり方には、常に危険が伴うのも事実です。従業員に自由を与えすぎると、混乱が生じやすくなる。だからこそ、組織全体の目的意識が重要なのです。リクルートでは目的(パーパス)は「ビジョン・ミッション・バリューズ」という形で表現されていますが、そのなかの重要な要素として、社会的価値を優先することが挙げられます。

社会的価値を優先するとは、どういうことでしょうか。業績を度外視して社会的価値を追求するのか、あるいはその逆なのか。『スタディサプリ』を調べていて驚いたのは、事業が黒字化しないうちから、リクルートグループの経営トップが数年間も投資の支援を続け、ロンドンの教育技術系スタートアップQuipperの買収まで許したことです。これは、リクルートグループの経営が、『スタディサプリ』が社会的価値のあるパーパスの達成に向けて実証的に進んでいる限り支援することを約束したからだと解釈します。

そしてこの間、リクルートの人々には「知恵と努力でパーパスの実現と利益創造は両立できるはずだ」という信念がありました。従業員たちは、仲間や経営陣が志をひとつにしてパーパスを追求する姿を見て、その輪に加わっていきました。これは一見簡単そうに見えますが、多くの企業ではなかなか難しいことなのです。

フレームワークの背景や歴史をグローバルに共有できるか

グローバルに展開すればするほど、パーパスを持ち続けるための方法は複雑になっていきます。リクルートの次なるチャレンジは、規模も事業領域も拡大していくなかで、いかにして起業家精神を維持していくかということになるでしょう。

1988年のリクルート事件で、リクルートの創業者が政治家に自社株を提供し有罪判決を受け、日本の首相と内閣が総辞職するというスキャンダルがあったことは、日本の従業員の皆さんはご存じのことと思います。この不祥事の詳細と、より高い企業倫理を獲得するために行ってきた協調的な努力は、現在の企業文化に深く浸透しているため、ほとんど語られることがありません。しかし、このような歴史や暗黙の了解を、世界中の異なる背景を持つ従業員たちと共有することは、非常に複雑で難しいことなのです。従って、リクルートは自分たちの戦略をもう一段進化させる必要が出てくるかもしれません。

とはいえ、リクルートがこれまで行ってきた起業家的行動を促す施策の成功や、スケールアップの各フェーズで過去の困難を乗り越えてきたことを踏まえれば、今回も必ず道は開けると信じています。リクルートのパーパスに対するコミットメントは非常に強いので、この環境のなかから社会的価値の高いベンチャービジネスがたくさん出てくることを期待しています。

ランジェイ・グラティ (Ranjay Gulati)

ハーバード大学経営大学院 教授

ハーバード大学経営大学院 組織行動学ユニットの元ユニット長、アドバンスト・マネジメント・プログラムの元チェアマン。

87年 MITスローン経営大学院で経営学 修士号、93年 ハーバード大学 組織行動学 博士号を取得。93年から2008年までノースウェスタン大学 ケロッグ経営大学院で、08年からはハーバード大学経営大学院で教鞭をとっている

Deep Purpose

書籍紹介

Deep Purpose

ランジェイ・グラティ著
HarperCollins Publishers(2022年2月)
英語版

2022年03月22日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。