リクルートホールディングスが2024年3月に開催したInvestor Update FY2023の2日目のテーマは、リクルートグループの3つの経営戦略の1つであるHelp Businesses Work Smarter。その進捗と展望について、担当役員によるトークセッションも交えつつお伝えしました。
売上収益の成長と、調整後EBITDAマージンの最大化を両立する
冒頭、リクルートホールディングス常務執行役員・マッチング&ソリューション事業担当の北村吉弘より、Help Businesses Work Smarter戦略の現状と今後のレバレッジポイントを説明。まず、Help Businesses Work Smarter戦略の中核を担う販促事業(中小企業向けのマーケティング支援・業務支援)というドメインの持つ経済環境の影響を受けにくいという特性を前提として共有したうえで、今後もオンライン・オフライン双方のアクションデータやマッチングテクノロジーを駆使して個人ユーザーのアクションを最大化していくこと、それに伴い代替され得るクライアントの人件費と販売管理費の一部を含めたものがTAM(Total Addressable Market、獲得し得る最大市場規模のこと)であり白地が大きいと認識していること、そして売上収益の成長だけでなく社内のオペレーションを磨き込み生産性を高めることで調整後EBITDAマージンの最大化を目指していくことを宣言しました。
北村は、販促領域の存在意義について、「販促領域で培った企業クライアントの関係性と、マッチングプラットフォーム及びSaaSを通じて可視化される企業クライアントの事業運営に関わる情報は、『Indeed PLUS(インディード・プラス)』や人材領域のジョブボードといった人材マッチングサービスの営業活動にも有益」と述べ、マッチング&ソリューションSBUの中に、Simplify HiringとHelp Businesses Work Smarterという2つの戦略テーマがあることのメリットを示唆しました。
リクルートホールディングス常務執行役員の北村吉弘
推進実行のカギとなる4つの具体策
続いて、マッチング&ソリューションSBUでプロダクト開発を担当する役員である秋山純、牛田圭一より、推進実行における具体策として、以下の4点が先行事例とともに説明されました。
個人ユーザーの利便性を向上させることによって、マッチングプラットフォームやマッチングサービス上でのアクション数を増加させること
企業クライアントの業務を効率化することによって、マッチングプラットフォーム上の「在庫」である予約可能枠を増加させ、企業クライアントとリクルートとの関係性も強化すること
個人ユーザー(リクルートID)と企業クライアント(AirID)それぞれの獲得コストを最適化すること
『Airペイ』及び「Airペイ オンライン」内での決済流通額を拡大させることで、今後のフィンテックサービス拡充の基盤とすること
秋山は美容領域における『サロンボード』や、住まい領域における『スーモカウンター』を例に、「個人ユーザーと企業クライアントの本質的な課題解決のために、オンライン、オフライン、マッチングテクノロジーといった当社全てのアセットを活用し、マッチングプラットフォームの価値を高めるような進化が各事業分野で進んでいる」と、今後に向けた明るい兆しを共有。牛田は「日本の労働人口の高齢化や慢性的な人手不 足からくる企業クライアントの事業運営の課題に対して、当社の業務支援SaaSが応えることができる。企業クライアントの生産性が向上することで、マッチングプラットフォームの在庫が増え、結果として、個人ユーザーと企業クライアントとのマッチングとアクション数の増加につながっていく」と展望を述べました。
2005年にサービス開始した『スーモカウンター』を例に、オフラインにも柔軟に目を向ける意味を説く秋山純
「Air ビジネスツールズ」はひとつのIDで16のサービスを使用することができると、牛田圭一
最重要は、個人ユーザーの利便性を高めること。より良いマッチング、より良いプロダクトを作ることにフォーカスしていく
プレゼンテーション後、北村に加えて、マッチング&ソリューションSBUの常務執行役員 プロダクト担当 淺野 健、執行役員CHRO 広報 サステナビリティ担当 柏村美生も参加し、Fireside Chat(座談会)形式で質疑応答が行われました。以下、当日の内容をダイジェストでお伝えします。
ー 販促領域の成長率の見立ては?
2024年1月の「Indeed PLUS」ローンチに伴い、これまでマッチング&ソリューション事業内にあった人材領域の売上がHRテクノロジー事業にシフトしていくことを受けて、販促領域単体ではどの程度の売上成長率と調整後EBITDAマージンが見込まれるのかに注目が集まりました。これに対し、北村は、「リクルートID」に代表される個人ユーザーの総量と、「AirID」に代表される企業ユーザーの総量がともに増加している事実を伝え、「これらを基盤として拡大していけると思っている」と希望的な見解であることを示しました。
淺野は「販促領域の収益は、企業クライアントの増益と連動する構造になっている。まず企業クライアントにとっての送客数を上げることがカギであり、その先のビジネスプロセスにおける利便性はまだまだあげられる」と述べました。利便性向上の具体例として『Airレジ』と『HotPepperグルメ』の連携を挙げ、「企業クライアントが座席管理の手間をかけることなく、個人ユーザーは1分前に予約して来店できる世界が実現できるようになった。あくなきユーザーエクスペリエンス(UX)改善で個人ユーザーの利便性を高めることで、翻って企業クライアントのプライシングなどの工程にも関与していけるようになり、その結果として新たなマネタイズ、収益拡大につながっていくだろう」と、アクションの量と質を追求することが売上成長に繋がっていく関係性を説明しました。
調整後EBITDAを左右するとみられている、社内の生産性向上については、柏村がセールス部門での兆しを共有しました。「2021年に7社を1社に統合し、それによって成長領域への迅速な人材異動ができるようになった。また、ひと昔前はひとりの営業パーソンが契約からシステム導入、フォローといろいろなことをやる構造だったが、現在はタスクを分けて進化させている。最近では、事業領域横断のクライアントサクセス部門を組成し、各領域の良い兆しを他領域へ素早く横展開できるようになった。」
この他、営業を支えるデータ基盤の進化についても「タイムリーに必要なデータを取り出し、企業クライアントと会話できるようになってきた。そのスピードは3倍近く速くなっている」と言及し、「リクルートの経営理念『個の尊重』に象徴されるように、人はやりたいことをする時が最もパフォーマンスが高い。この思想を大事にしながら、CHROとして人が 創り出す価値を最大化したい」と抱負を語りました。
マッチング&ソリューションSBUの北村吉弘、柏村美生、淺野健
ー リクルートらしいフィンテックサービスとは?
続いて、フィンテックサービスの具体イメージを問われ、北村は「Air ビジネスツールズは業務にまつわる煩わしさを、簡単にするまたは無くす、という思想で開発してきている。その延長線上に拡大していくリクルートのフィンテックも、同様の思想でやっていくことになるだろう。つまり、お金に関わる煩わしさを無くすようなサービスであり、Air ビジネスツールズをはじめとした複数のサービスが連携するなかで価値を発揮するものになるだろう」と語りました。
最後に 北村が「10年後を見据えたトライアルをたくさんやっているので、フィンテック含めた今後のサービスの進化に期待していて欲しい」と呼びかけ、1時間半の会は終了しました。