Corporate Blogリーダーシップ

CEO出木場 久征の思う「新しい価値」のつくり方

リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEOの出木場 久征(いでこば ひさゆき)が、社外講演やメディアでお話させていただいた内容を再編集し、プロダクトづくりにかける思いや、マネジメントとして大切にしている考え方をお届けします。

「これがなかった時は、どうやってたの?」と思うくらい便利なサービスを作りたい

私の娘が12歳の誕生日プレゼントに「スマホが欲しい」と言ってきました。「スマホがないと友達と遊びに行けない」って言うんです。「そんなことはないだろう、パパが子供の時は携帯電話なんてなかったんだから」と返したのですが、「じゃあ、パパはどうやって友達と遊んでたの?」と逆に聞かれて答えに窮してしまいました。そう言われてみると、どうやってたんだろう…?って。友達の家に電話して「○○君いますか?」なんて、今の時代ではできないですよね。本当に便利なものを使っていると、昔どうやっていたかを忘れてしまう。そんな体験を"WOW Experience” と僕は呼んでいます。そして、こういうものを作れることこそが自分たちの価値であり、一人ひとりがこの会社に集まっている理由だと思っているんです。30年後、50年後の人たちが「これがなかった時はどうやってたんだろう?」と思うくらい便利なサービスを1つでも多く生み出せたら、こんなに嬉しいことはありません。

そのためにも、僕は一緒に働くチームのみんなに対して「まずは美味しい“素うどん”を作ろう」と話しています。もしうどん店を経営しているとして、売上や利益を上げるのはどうしたらいいかと考える時、商圏や客層に合わせて単価をいくらに設定しようとか、天ぷらを載せてみたらどうか、お得感のある定食メニューを作ってみてはどうかとテクニックに走ってしまいがちです。でも本当に大事なことは、やっぱり出汁が効いていて麺がめちゃくちゃ美味しい最高の素うどんを作れるかどうかだと思うんです。

リクルートグループは「WOW THE WORLD(新しい価値の創造)」をバリューズのひとつとして共有し、「Opportunities for Life.(まだ、ここにない、出会い。)」を届けることをミッションに掲げている会社です。たとえば10年後、20年後に振り返った時、「リクルートグループのサービスがあったから、こんなに簡単になったよね」と言ってもらえるようなプロダクトやサービスを、世界中の人々に一番良い形で提供できているかどうかが何よりも大事なこと。だからこそ、まずは「価値」を創るということにフォーカスしたい。せっかく良いビジネスアイデアがあっても、「マーケットの規模はどれくらいか?」「うまくいっても儲からないんじゃないか?」みたいなことを言っていると、本当に何も始まらないんですよ。あくまで僕の経験から考えたことで間違っているかもしれませんが、「価値を創る」ということと「どうやって儲けるか」というマネタイジングの話はしっかりと分けて考えるべきではないかと思っています。

例えばリクルートは情報誌からインターネットへ、広告事業からマッチングプラットフォーム、さらにはSaaSソリューションによる業務支援など、時代とともにビジネスを変化させてきました。なぜ次々に新しい事業を生み出せるのかと聞かれることもありますが、僕は「お客様、ユーザーにとって何がいいのか?どんな価値を提供できれば便利になるのか?」ということをシンプルに追求し、ビジョンやミッションとして掲げてきたからだと思っています。ビジネスモデルがどうだとか、新規事業提案の仕組みがあるといったことも大事なことかもしれませんが、もし自分たち自身が「リクルートは情報誌の会社だ」と決めてしまっていたら、現在の形にはなっていなかったでしょう。「目の前のユーザーとお客様(クライアント企業)にとって、もっと便利になる新しい価値を提供することが大事なんだ」と考えていたからこそ、情報誌よりもインターネットの方が便利だよね、SaaSを使って業務支援サービスを組み合わせたらもっと便利になるよね、と進化し続けることができたのだと思いますし、これからも変わり続けていかなければならないと感じています。

「失敗しないように」ではなく、「失敗の総量」をマネジメントする

「次々と新規事業が生まれて、海外M&Aも成功しているけど、どうやってマネジメントしているの?」とご質問をいただくことがあります。大変ありがたいお言葉なのですが、実際のところは失敗の連続なんです。チャレンジしている回数が圧倒的に多いだけなのかもしれません。

新規事業検討などの場面に限らず、日常の会議などでも、担当者が何かプランを持ってきた時に「それは前にやって失敗したから止めておいた方がいいよ」とか「それをやるとコケるから、別のやり方にしよう」といった議論になる場面、よくありませんか?僕はこのような「失敗させない」マネジメントがあまり好きではありません。失敗しない人や失敗しないチームというのは、優秀であると言えるかもしれませんが、その優秀さに見合った難しい目標に挑戦していないということの表れでもあると思うんです。陸上競技の「走り幅跳び」を考えてみてください。決められた回数の試技のうち1回だけでも上手く飛べば、それが記録になる競技ですが、これがもし「1回でもファウルをしたら失格」と言われたらどうでしょう?きっと世界記録は1m以上短くなっているのではないかと思います。これはビジネスでも同じで、何か新しいことに挑戦しようとする時に「このプロジェクトがもし失敗しても、会社としては問題ないよ」という状態で議論するのと、「このプロジェクトは絶対に失敗できない」という状態で議論するのとではまったく違う結論になるはずです。

これまでにない新しい価値や画期的なサービスを生み出したいと思うなら、達成するのはとても困難だけど、もし達成できたら「よっしゃ、やったぜ!」と全員で大喜びできる、そんな目標を掲げることが大事だと思います。そうすると、必ず失敗するんですよ。僕も若い頃は「業界を変えるんだ!」って意気込んでチャレンジして、何度も失敗してきました。この世の終わりだと思ったことも、何度もあります。でも、そんな時も上司や周りの先輩は「お前は若くて経験がないから、そう思うんだよ」と言いながらも、「いいじゃん、やってみれば」とチャレンジさせてくれました。今振り返ってみれば、僕が「やりたい」と思ったことは失敗を覚悟の上で自由に挑戦させる一方、チームとして最低限の業績は残せるようにうまくリードしてもらっていたんだと思います。そんな経験から、僕自身もメンバーを「失敗しないように導く」のではなく、「失敗の総量をマネジメントする」ことを大切にしています。このプロジェクトは思い切って挑戦してみたけど失敗したし、こっちの案件も難しくてあまりうまくいかなかったけど、チームとしての業績はしっかり帳尻を合わせてあるから大丈夫。そんな状態を作ることこそ、経営やマネジャーに求められる仕事なのではないでしょうか。

世界で一番権威や権力のないCEOになりたい

僕は「世界で一番権威や権力のないCEOになりたい」と言っているんですよ。最前線で一生懸命頑張っていて、分かっている人が判断したほうが、良くなると思うからです。

先日出会った草野球がすごく好きな人が、朝の5時から河川敷に20人くらいが集まって試合をしていると言うんですよ。そうすれば7時くらいには終わるので、そのまま会社に行けると。みんな誰かに強制されるわけでもなく、自発的に早朝から集まっているわけですよね。これこそが「情熱」だと思うんです。これがもし、会社から「目標達成するために、5時に出社して働け!」と言われたら、絶対に「えー…」ってなりますよね。よく「この指とまれ」という話をするのですが、チームやプロジェクトを編成する時は上から指名してチームを組ませるよりも、「やりたい」と思った人が自ら手を挙げてリーダーになり、その周りも同様に集まって、自然発生的に作られたチームの方が絶対に力を発揮できるはずなんです。

リクルートグループには創業以来大切にしてきた「個の尊重/BET ON PASSION」という価値観があります。僕はこの言葉の意味を「あなたはわがままで、自分勝手でいいんだよ」ということだと解釈しています。大事なのは一人ひとりの個であって、会社は個人が情熱を持ってやりたいことに打ち込める環境を整えるための器に過ぎません。

こういった考え方は創業当時から社内にあるものですが、近年世界的に注目されている「DEI」や「人的資本経営」などの考え方そのもので、60年以上前にこのような考えを持って経営が行われていたことには驚くばかりです。そんな企業文化が根付いていますから、リクルートグループのマネジメント層には従業員一人ひとりの情熱を引き出し、それを存分に生かすことが求められます。リクルートグループのマネジャーは「ああしろ、こうしろ」と指示を出すのではなく、逆に「あなたはどうしたい?」「どうすべきだと思う?」と聞くんです。このマネジメントスタイルは海外でも同様にやっていますが、最初はどの国でも驚かれますね。たとえば、私のところにも「A案・B案・C案があります」って持ってくる人がいるんですが、「なぜあなたが決めて持ってこないの?」と問います。「あなたが情熱を持ってこのビジネスに取り組んでいて、こうすべきだと思っているのなら、僕よりあなたの方が専門なんだから、それがベストに決まってるじゃない」と。

従業員一人ひとりにパッションがあれば、CEOに権威や権力なんか無くていい。「世界で一番権威や権力のないCEO」は、世界で一番楽な仕事なんですよ。 

★DSC 0202

出木場 久征(いでこば ひさゆき)

株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO

1999年リクルートに入社。『カーセンサー』の営業を経て、『じゃらん』『ホットペッパービューティー』など販促系事業のオンライン化や、ネットビジネスに適した組織開発に従事。2012年リクルートホールディングス執行役員に就任。13年Indeed CEOを兼任。16年リクルートホールディングス常務執行役員、グローバルオンラインHR SBU(現HRテクノロジーSBU)長に。19年取締役 兼 専務執行役員、20年取締役 兼 副社長執行役員を経て、21年4月より現職

2022年11月08日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。