日本企業の管理職(課長相当職以上)に占める女性比率は15%にも満たず(注1)、世界平均の約30%と比べると際立って低い水準にあります。このような日本の状況の中で、創業以来、ジェンダーや学歴等に関わらず多様な人材を登用してきたリクルートでは、2006年からDEI専任部署を設置し働きやすく、働きがいのある環境づくりに着手した結果、2022年の女性課長比率は、2006年比で3倍に増加しました。このジェンダー平等への取り組みを現場で推進している組織リーダーたちに、組織に起きた変化や事業へのプラスの効果について聞きます。
(注1) 出典:ILOSTAT「[5.5.2] Proportion of women in managerial positions(%)」2021年データに基づく数値
ジェンダー平等が遅れる日本で世界水準を目指すリクルート
世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダー・ギャップ指数では、日本の総合順位は146か国中116位(注2) 、さらに女性管理職比率はG7の中で最下位(注3) でした。

(注2) 出典:世界経済フォーラム(World Economic Forum: WEF) 「Global Gender Gap Report 2022」に基づく数値

(注3) 出典:ILOSTAT「[5.5.2] Proportion of women in managerial positions(%)」2021年データに基づく数値
日本では性別による役割分担意識が根強く、他国に比べて無意識のジェンダーバイアスが依然として強いと言われています。実際に日本では、女性が男性の5.5倍もの時間を家事・育児・介護などの無償ケア労働に割いており(注4)、このギャップは先進諸国の中で最も大きいものです。

(注4) 出典: OECD「Balancing paid work, unpaid work and leisure」2020年データに基づく数値
リクルートグループは「2030年度までに、従業員から上級管理職までの全ての階層において、女性比率を約50%とする」という世界的に見てもチャレンジングなジェンダーパリティ目標を2021年に掲げました。これを受けて、日本を中心に事業を展開するリクルートでも、事業や機能部門ごとに3カ年計画を定め、具体的な取組みを進めています。この取り組みの中で見えてきた変化を、3つの事例を通してご紹介します。
多様なリーダーの任用が、戦略の実現力もリスク対応力も高める
リクルートでは、管理職におけるジェンダー平等をさらに進めるため、管理職要件の明文化に取り組んでいます。営業組織を率いる加藤剛史は、「組織長の階層が上がるほど女性の割合が減ってしまうというという事実を解決しなければならない」という課題感を持ち、管理職要件の明文化に取り組んだリーダーのひとりです。具体的には、これまでは暗黙知になっていた、管理職候補者を選ぶ議論の基準となる管理職に求める能力や行動を明文化しました。
リクルートでは、複数の組織がこの管理職要件の明文化を進め、導入した組織では、女性の課長職候補者が平均1.7倍に増えました。さらに、男性の課長職候補者も1.4倍に増え、ジェンダーに関わらず多様なリーダー が生まれる兆しが出てきています。「これまでの成功体験に基づいて暗黙知として管理職に求めていた能力や働き方は、本当に必要なのか?を改めて対話を通じて自身に問い直すなかで、新たな気づきを得ることができ、私たちマネジメント層の意識も大きく変わりました」という加藤の言葉からも、この管理職要件の明文化によって、能力に基づく判断が徹底され、無意識のバイアスを外すことができるようなったことが分かります。加藤は「私の組織では、女性の管理職候補者は2倍に増えました」とその効果を強調します。

加藤 剛史(株式会社リクルート Division統括本部 HR本部 中途Division Division長)
さらに、多様な強みを持つリーダーが生まれることで、結果として、より戦略の実現性が高まると共に、予測が難しい時代におけるリスク対応の力も高まります。「同質性の高い組織は、大きな環境変化が起きたときに対応が遅れがちです。多様な人材がモザイクのように活躍していれば、大きな変化があっても、その変化に強みを発揮できる人が出てくる」と加藤は力強く語ります 。
多様なメンバーの「想像力」は、多様な顧客ニーズに応えるプロダクトを生む
SaaSソリューション「Air ビジネスツールズ」は、リクルートグループの3つの経営戦略の1つである”Help businesses work smarter” を象徴するサービスです。潜在顧客事業所数は453万(注5)。日本の様々な事業者の生産性向上を目指しています。当然、ユーザーの属性や嗜好、リテラシーのレベル、サービスを使用する場所やシーンなどは多岐にわたります。この多様なニーズに応えるためには、ジェンダーを問わず多様なメンバーが関わり、顧客ニーズを捉える「想像力」の幅を拡げることが重要だと、事業を担当する執行役員の牛田圭一は言います。「多様な意見が集まれば、結果として顧客に良いプロダクトを提供することができる。全ての場面を想定して大量のA/Bテスト(注6)をするよりも、よほど効率的」と、DEIが同事業にとって不可欠であると語っています。
(注5) 2022年6月末時点でマッチング&ソリューションSBUが日本国内で提供しているSaaSサービスの潜在顧客事業所数の当社推定。総務省・経済産業省「平成28年経済センサス-活動調査結果」及び中小企業基本法における中小企業者の定義等に基づく中小企業者の事業所数を潜在顧客事業所数としている。
(注6) 現在実施している(実施を予定している)仕様=Aパターンと、その仕様に変更を加えた仕様=Bパターンを用意し、どちらがよりユーザーの受容性が高くなるか検証する手法
