リクルートホールディングスは、2023年7月4日にESG Fireside Chat(座談会)を開催。取締役常務執行役員兼COOでサステナビリティを担当する瀬名波文野と経営戦略・IR担当執行役員の荒井淳一が対談する形で、サステナビリティへのコミットメント - Prosper Togetherの2022年度の進捗をご報告しました。ざっくばらんな2人の対話に加えて、QAセッションでは参加者の方から鋭いご質問を頂き、決算発表からだけでは見えにくい、進捗の中で見えてきた兆しや悩みどころなどをお伝えしました。
気になっているが聞きにくい質問に切り込む進行
昨年度に引き続き、瀬名波と荒井が対談する形式で進行。前半は、IR担当として投資家の皆さまとの接点が多い荒井から、「投資家の皆さんが気になっているけど聞きにくいであろうこと」という切り口で、リクルートグループのESGの進捗状況を瀬名波にインタビューしました。そして、後半のQAセッションでは、参加者から頂いたたくさんのご質問の中から、関心が集まっているものを荒井がピックアップし、瀬名波がその場で回答しました。
参加頂いた方々からは、「ふたりがざっくばらんに話していて、その場にいるような臨場感があった」「良いことも悪いことも隠さずに、本音で伝えようとしていることが感じられた」といった声も。本決算で2022年度の進捗を公表しているものの、開示資料だけでは伝え切れない現場の情熱や苦悩、息遣いを感じていただけるオープンでインタラクティブな場となりました。
経営戦略・IR担当執行役員の荒井淳一(左)と取締役常務執行役員兼COOでサステナビリティを担当する瀬名波文野(右)
データで振り返った2022年度
2022年度の進捗について、瀬名波は「うまく進んでいると思う目標もあれば、想像していたより難しくて苦労してるものもあるというのが正直なところ」と率直に述べ、データも交えながらそれぞれについて説明しました。
カーボンニュートラル実現、3,000万人の就業支援、取締役会の女性比率向上は順調
まずバリューチェーン全体のカーボンニュートラルの実現を挙げ、SBTi(Science Based Targets initiative)から科学的根拠に基づいたGHG削減目標であることの認定(注1)を取得したこと、サプライチェーンを巻き込んだ削減が順調に進捗したことを報告しました。障壁に直面する3,000万人の就業支援については、この2年間で390万人の就業を実現したことを具体的な成果として共有。さらに取締役会の女性比率を50%にする目標についても、2年連続で女性取締役が選任され、女性比率は33%に増加したことを挙げました。
取り組むなかで課題の解像度が上がった目標も
一方で、就業までに掛かる時間の半減の進捗については、人によって仕事探しの開始を意味するプラットフォーム上のアクションが異なるため、その特定と測定に試行錯誤を重ねていることを明かしました。そんななかでも、Indeedアセスメントを利用した企業は16%早く採用できたという結果が出るなど、プロダクトの進化によって就業までにかかる時間の短縮の兆しは見え始めており、今後も成果を共有していきたい、と前向きに語りました。
また、グループ全体で全ての職層の女性比率を50%にするというDEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包摂性)目標については、初めて戦略ビジネスユニット(Strategic Business Unit、以下SBU)ごとの数字を公開し(以下グラフ参照)、グループ全体での大きな挑戦はHRテクノロジーSBUとマッチング&ソリューションSBUの女性管理職比率であることを明らかにしました。
人材派遣SBUは既に従業員も管理職もパリティ(同等)を達成
HRテクノロジーSBUのIndeedでは、昇格昇進率や退職率は男女でほぼ差がないため、採用時の男女バランスの改善に注力しており、2021年度はInclusive Interview Rule(候補者のプールに多様性があるかを確認するまで面接を始めない仕組み)を採用プロセスに導入することで数値の改善があったものの、2022年度は人員削減や採用凍結のためその効果が薄かったと説明。現在は、Inclusive Interview Ruleを社内の昇格昇進に適用する取り組みを進めていることも付け加えました。マッチング&ソリューションSBUについては、「いい兆しが出ている」と語り、その理由として、事業が自ら主導して目標を決めて3ヶ年計画に落とし込むという、リクルートの強みやケーパビリティ(企業成長の原動力となる組織的能力)を活かして推進をしていること、さらに管理職の任用要件の明文化(注1)を進めることで、人選をする際にバイアスが入り込む余地が減り、候補者の多様性が向上していることの2つを挙げました。
注1) 管理職候補者選びの段階で、画一的な働き方やリーダー像といったバイアスを排除し、個々人の能力に基づいた候補者選びを徹底するための取り組み
Q&Aセッションダイジェスト
事前のアンケートフォーム、さらに開催中はチャットで、たくさんのご質問を頂きました。ここでは当日瀬名波が回答した2つの質問をご紹介します。
Q. 求職者は、今の職場の人間関係がちょっと嫌で転職したい方や、自分が仕事に何を求めているのか分からない方などさまざまだろう。求職者の希望を洗い出す作業に一番時間が掛かるイメージがあるが、これを短縮することは出来るのか?これは 、速ければいいというものなのだろうか?
瀬名波:ご質問の背景でもあるマッチングの精度も含めて、「就業までに掛かる時間の半減」というゴールを掲げています。求人情報を見てから応募するまで、あるいは面接に行くまでといったように、仕事探しの一部分を短縮しようとすると、あまりマッチングの「質」の議論は入ってきませんが、採用されるまでの全プロセスの時間を半分にすると言ってるので、求職者が「私にぴったり」と感じたり、「次はこういう所で働きたい」と思ってたニーズにフィットした求人情報がちゃんと提示されないと、そもそも採用まで至らないわけなんですね。
なので、時間を半分にするというゴールには、このマッチングの精度、より「あなたにぴったり」というレコメンド(おすすめ)ができるかどうかも勝負になってくる。KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)としては「時間が半分になってるか」で見るのですが、それを実現しようと思うと、質の議論は避けて通れないところがあります。マッチングプラットフォームとしてこの精度をどう上げていくかは、引き続きしっかり取り組んでいきたいと思っています。
Q. 「就業障壁に直面する3,000万人の採用を支援する」目標は、リクルートグループの企業価値向上にどのようにつながっているのか、どう寄与しているのか?
瀬名波:例えば、NPO等の支援 団体とのパートナーシップを通じて得た障壁に対する知見をもとに、プロダクトを進化させたりしてるんですよね。その例として、IndeedからSkill Connectというサービスを最近ローンチ(提供開始)しました。これは、障壁に直面している方々が職業訓練プログラムを受講して、その結果得たスキルを自動でレジュメ(履歴書)に反映できるようなものなんです。一般的なレジュメのフォーマット(ひな型)だと、皆さんが頑張って受けた職業訓練プログラムで得たスキルや経験をなかなかアピールができなかったんですね。書く場所や表現する場所がなかった。それは良くないということで、レジュメのフォーマット自体を変えて、採用企業がそのスキル情報をもとに書類選考ができるようにしました。このように、3,000万人のゴールに向かって一生懸命やっていく中で得た知見を、プロダクトそのものに反映して、より多くのより良いマッチングを追求することは、長期的なプロダクト進化、そして企業価値に繋がっていくと思っています。
景況が厳しい中でもESGに取り組むのは、ESGが本業に直結しているから
対談の終盤では、荒井が「聞きにくい質問をするのが私の仕事です」と前置きしたうえで最後の質問を投げかけました。
荒井:当社は5月の決算発表で、厳しくてとか、減収減益ですとか、通期の業績見込みは出せませんとか、コスト削減しますとも言ってるわけです。こんな厳しい事業環境の中で、 なんでESGの取り組みなんかやってんの?もっと本業にフォーカスした方がいいのでは?という厳しいお声もあるのではないかと思います。これは本業に集中していないということなのか?このような時期に、あえてESGを強く進めるのはどのような意図なのでしょうか?
瀬名波:「本業だと思ってやってます」というのが答えかなと思います。事業の横で小さく良いことやります、みたいな風にはしてないつもりなんです。事業の真ん中でちゃんと儲けながら、ちゃんと社会に貢献するということを両方やりたくて、このゴールにしています。就業までにかかる時間を半分にするのは、シンプルに言えばマッチングの効率が倍になるということ。マッチングの効率が倍だから、マネタイズ(収益化)の機会も倍とは言いませんが、もちろん売上や利益に長期的には貢献してくれると思っているからやっています。すごくポジティブに言うと、ナンバーワンという規模の話だけではなくて、もし半分にすることができたならオンリーワンにもなれるかも、とすら思ってます。
それから、「この(不透明な景況感を背景とした)ご時世にダイバーシティとか言いますか?」みたいな声もあるかもしれないんですけど、私たちは物を作ってるわけでもないですし、何十年も依拠できるパテント(特許)があるわけでもないなかで、イノベーションを続けなきゃいけない。となると、やっぱり世界中から優秀な人たちを集めて、一生懸命新しいものや新しい価値を作っていかなければいけないので、多様な人が仲間になってくれることは、当社の生き残りを 決めるサバイバルメカニズムなんですよね。そういう意味でもダイバーシティは大事だし、事業の真ん中だと思っています。
荒井:そうはいっても長期の話だけじゃなくて、何か短期リターンはないの?という声もあると思いますが?
瀬名波:目先のところでお話しすると、例えばESG格付けが爆上がりして、明確に取れる短期メリットは取れています。それはそれで嬉しいのですが、やっぱり時間軸を長くとって、当社の長期的成長に寄与する取組みにしたいですね。これをやってると長期的には儲かるんです、というものにしたいと思っています。だからこそ、中長期事業戦略のひとつに入れたわけです。
瀬名波の力強い言葉で締めくくられた今回のESG Fireside Chat。ぜひ動画でもご覧ください。