バブソン大学 山川 恭弘准教授
成績評価では、事業内容や売上、利益、人物評定、試験などといった要素も加味されますが、特に「どれだけの学びを得たか」に重きが置かれていて、新しいことにどんどん挑戦して失敗すればするほど、そこから得た学びを自慢でき、先生に喜ばれ、成績が上がります。逆に万事うまくいってしまうと、あまり学びがなく評価が上がらない仕組みです。バブソンに集まる起業家の卵たちも、最初から自信を持って、果敢に挑戦して、失敗できる訳ではありません。成績を上げるという目的と失敗することが直結した、非常にうまいインセンティブ(ご褒美)の仕組みがあるからこそ、安心して挑戦して、そして失敗できているのです。
ひと昔前までのように予測可能性の高い世界なら、データ分析や過去の傾向からアイディアを出すことを重視していればよかったでしょう。しかし今のように不確実性の高い世の中では、因果関係が分からず、成功方程式も通用しないので、やってみないと分からない。バブソンでは、予測すること(Causation/Predictive logic)もさることながら、何か一つやってみて、失敗してもそこから効果的に方向転換すること(Effectuation/CreActive logic)が大事だと教えています。
(注1) バブソン大学による調査Entrepreneurship Monitor Reportsによると、日本国民の「起業機会」や「自分のアイディアが新しい価値を生むかもしれない」と思える機会実感は世界で最下位レベル
企業の経営者が失敗をさせまいと「絶対失敗するな」と毎日言うと、失敗の絶対数が減るのではなく、失敗の報告数が減ることが研究で分かっています。事業に失敗はつきものなのです。ならば、失敗を受け入れて、共有して、次に活かした方がいいですよね。しかし、経営者が声高に「どんどん失敗しろ」と言っても、従業員は「そうは言っても、本当は失敗したら出世できないんでしょう」と不安がっていることも多い。よく経営者の方から「どうしたら失敗の風土が作れるのか」と相談されますが、先ほどのバブソンの例を企業に当てはめて考えてみると、質の高い失敗をするほど評価が高まり、もっと面白い仕事にどんどん挑戦ができる、そんな失敗を奨励する人事評価システムが一つの答えになると思っています。
米国では、失敗は「誇るべき勲章(Token of pride)」とも呼ばれ、「失敗したことはありますか?」というのは、スタートアップや起業家の投資家へのピッチ(注2)やその後のデューデリジェンス(注3)で必ず聞かれる、基本中の基本の質問です。リクルートでも、質の良い失敗は「挑戦した証」としてトラックレコード(実績)になるそうですし、グループCEOの出木場さんも失敗を奨励していて、自身の仕事は「失敗の総量のマネジメント」だとメディアの取材などでも話していますね。こういったアプローチは、アントレプレナーシップの世界でも最先端かつ王道で、私も大いに共感します。今後グローバル戦略を進めていくなかでも大きな強みになるでしょう。
また、日本においては、まずこういった考え方を積極的に社外へ打ち出して、失敗に対する寛容度が上がるよう推進していくことが、リクルートのようなブランド力のある企業の責務ではないかと思います。政府が国をあげてスタートアップを支援し始めた今こそ、パーフェクトなタイミング。起業家精神を企業文化に持ち、実際に数多くの失敗のなかから新しい事業を生み出してきたリクルートグループのトップが語るメッセージは、きれいごとではなく、リアリティのあるものとして響くはずです。
(注2) 主に資金調達を目的とした短いプレゼンテーション
(注3) 事業価値やリスクの精査
山川 恭弘(やまかわ・やすひろ)
バブソン大学 アントレプレナーシップ准教授
起業道、失敗学、経営戦略の分野で教鞭をとる。ピーター・ドラッカー経営大学院にて経営学修士課程修了(MBA)。テキサス州立大学にて国際経営学博士号取得(PhD)。エネルギー業界にて新規事業開発やスタートアップ設立の経験を持つ。起業・経営コンサルに従事すると共に自らもベンチャー企業のボードメンバーを務める。ベンチャーカフェ東京共同創立者・顧問。アントレプレナーシップに関する多数の学術論文を執筆。経済産業省推進「J-Startup」推薦委員、文科省起業教育有識者委員他