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リクルートホールディングスCEO出木場 久征が語るリーダーシップ:失敗の総量のマネジメント

リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEOの出木場 久征に、自身のリーダーシップスタイルやマネジメントを行う上で大切にしていることを聞きました。

「個の尊重(Bet on Passion)」が僕のリーダーシップスタイル

僕は「世界で一番、権威や権力のないCEOになりたい」といつも言っています。現在拠点としている米国では、リーダーシップといえば、「俺がお前たちのリーダーだ」と先頭に立って、指示を飛ばしながら現場を引っ張っていくストロングリーダーが王道のようですが、それは僕のスタイルではありません。IndeedのCEOとして渡米した当初などは英語がまったく話せなくて、頑張っても急には上手くならなかったから、当時の僕のつたない英語で「俺はこうやってやるからな」と偉そうに言っても、威厳なんて出なかったでしょう。

僕は、たまたま大きな会社に務めていて、たまたまビジネスをつくったりスケールさせるのが得意だったから、CEOという「係」をやっているだけ。僕はできないことが非常に多い人間で、営業や人事など、僕よりもはるかによくできる人がたくさんいます。「生兵法は大怪我のもと」で、知ったかぶりをして手を出すくらいなら、最初から得意な人にお願いしたいというのがすごくある。だから、日本でも米国でも、いつも自分が持っている情報はできる限りオープンに共有して、「権限を委譲しますよ、相談もしなくていいよ」と言ってきました。

これまで僕が日本で担当してきたのは追い詰められた事業ばかりでした。負け組の事業では、みんなやるべきことがしっかり分かっていて、それに集中できるんですよね。例えば、サッカーの試合で、0対1で負けていて、残り10分ですと言われたら、指示なんかなくても、何とか追いつこうとして一番点を取れそうな選手にパスを出すでしょう。組織やチームの大きな目的だけではなくて、今どのような状況で、やらなければならないことは何で、目標を達成したらどうなるかといった、いわばチーム事情みたいなことまでつまびらかに共有できていれば、リーダーが細かく指示を出したり、管理したりしなくても、それぞれが自分の役割を考えて、できることをやってくれる。僕はそれを身をもって経験してきました。

リクルートホールディングスが掲げるバリューズ(価値観)の一つに「個の尊重(Bet on Passion)」があります。情熱を持って取り組んでいる人が決めるからこそ、圧倒的にいいものができる。僕たちは、そう信じています。Indeedを買収してCEOに着任した時も、最初に「リクルートのために働く必要はないから、今まで通りIndeedのミッションに集中してほしい」とIndeedの社員に言いました。イノベーションについていえば特に、現場でより近くにいる人の方がルールや状況をよく分かっているし、情熱を持ってやっている。その人たちが決めた方が絶対に良いプロダクトができるから、僕はできるだけ口出ししないようにしているんです。もし、僕が絶対に正しいから従うべきだ、なんて考え始めたら危ない。でも、僕はまだ日々、間違ったなと思うこともあるし、「やってみないと分からないけど、こうやってみようよ」なんて言いながらやっているから、まだどうにかなっていると思っています。

株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO 出木場 久征

株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO 出木場 久征

新しい価値を創造し続けるには、挑戦して失敗から学び、成長していくしかない

リクルートが大切にしているバリューズには「新しい価値の創造(Wow the World)」もあり、新たなビジネスモデルをつくりだそうと努力していますが、これは絶対に負けてはいけない、失敗してはいけないという状況では無理なこと。とにかくやってみて、失敗から学んで、一人一人が強くなっていかなければ、先輩たちと同じやり方を繰り返すことになるだけです。ひたすら勝ちパターンを磨くことで勝ち続けられるのであればいいかもしれません。でも、僕たちが展開するインターネットビジネスでは、新しいビジネスモデルが次々に生まれて、勝ち方が頻繁に変わりますから、それで勝ち続けられる保証がどこにもない。そんな中で新しい価値を継続的に生み出していくには、とにかく挑戦して、失敗から学び、チームとして強くなるというサイクルを繰り返すしかありません。

そこでリーダーが果たすべき役割は、決して「失敗させないこと」ではなく「失敗の仕方をコントロールして、失敗の総量をマネジメントすること」だと、僕は考えています。たとえば子供に自転車の乗り方を教える時、ペダルのこぎ方をいくら説明しても、乗れるようになんかなりませんよね。本人が実際にやってみて、転んで、こうやっても上手くいかないんだというのを経験を通して獲得して、それからもう一度やってみるしかない。でも、どんな風に転ぶ経験をさせるかはコントロールできます。公園の中で転んでも擦り傷で済むでしょうが、国道の横で倒れたら致命傷を負うかもしれない。これはビジネスでも同様で、個人やチームは実際に失敗してみなければ強くなれませんから、リーダーの仕事は、取り返しがつかない事態にはならないように、失敗の総量をマネジメントすることだと思うんです。

僕は「どうせ上手くいかないだろう」と考えがちなタイプで、自分にしろチームにしろ、失敗した時にどうするかを細かくシミュレーションしています。「プランB、プランC」なんて言いながら、失敗した時にどうするかばかり考えているんです。ただ、チームメンバーはそんなことを考える必要はないと思っていて、やると決めたら思い切って挑戦してほしい。失敗した時にどうすべきかを考えておくのは、あくまでリーダーの役割だからです。『孫子の兵法』にも「必死は殺さるべきなり」とありますが、決死の覚悟を見せても、何も考えがなくて殺されてしまえば、リーダーの役割を果たしているとは言えないし、リーダーが「まさかこうなるとは思わなかった」なんて言うのはダサいじゃないですか。

株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO 出木場 久征

未来のリーダーへ:もっとわがままに、情熱を注げる仕事と向き合ってほしい

こういう話をすると、「確実に失敗すると分かっていても失敗させるのか?」と聞かれるのですが、答えはイエス。自身の過去の経験から絶対うまくいかないなと思っても、めちゃくちゃ熱量を感じる時は、やるなと言うよりも、やって失敗してもらう方が早いと思っています。そもそも、自分で経験することでしか獲得できないものがある。僕の子どもがスノーボードの動画を観て、自分でもできる気になってましたけど、あれほど感覚的な動きですから、動画を見ただけで上手くなるわけがないですよね。スポーツだったら、そんなの無理だというのが誰にでも分かる。でも怖いのが、これがビジネスの話になると、成功者の本を読んだり、講演を聞いたり、動画を見たりしただけで、自分も同じことができると思ってしまう人が多いことです。人の成功は再現できないし、真似したからといって自分の会社も伸びるなんてことはまずないでしょう。だから、僕が絶対うまくいかないと思って、こういう理由でうまくいかないんだと説得して止めたとして、それにどんな意味があるだろろうかと思ってしまうんです。むしろ、最悪の事態にならないようにしながら、挑戦して失敗したという経験を通して成長してもらう方が、最終的には大きな価値の創造につながるんじゃないかなと。

ただ、みんなに1つだけお願いしているのは、「びっくりさせないでね」ということです。仮に、年間1000億円の売上目標を立てていたチームがあったとして、実際に始めてみたら絶対無理だと分かったけれど、ずっと言い出せず黙ったままで、期末になって急に「100億円にも届きませんでした」と言ってきたとします。それは僕も取締役会もびっくりしますよね。問題が深刻になってから言われても解決策は限られてしまうけれど、気づいた時点で話してもらえれば、「じゃあどうしようか?」と一緒に考えられる。誰もわざと間違いを起こそうと思ってやっているわけではないことは、僕自身がこれまで間違いばかり起こしてきて、たくさん問題に直面してきたからよく分かるし、難しい挑戦ほど先が読めないので、うまくいかないことも多い。そういう時は正直に話してもらえる方がいいし、そうやって信頼関係もできていくと思います。海外の経営陣たちにも「事前に確認したいとか、承認したいとは思っていないから、自分たちでどんどん決めてほしい。ただ、何か困った事が起きたら隠さないで言ってほしい」とだけ伝えていて、それには彼らも「分かりやすいメッセージだ」と理解を示してくれます。

僕たちは誰一人としてリクルートのために生まれてきたわけではありません。僕も「ビジネスの修業をして、3年で辞めます」と言って入社したんです。それなのに今もまだここにいるのは、この会社には、人材も含めて何十年もかけて作り上げたアセットがあって、多くのユーザーやクライアントがいて、僕がやりたいと思える社会的インパクトのある挑戦ができるから。この会社でいろいろなことに挑戦して、失敗して成長して、そしてリクルートではできない事が見つかったら会社を辞めてもいい。それは、世の中に価値を創れる人材を輩出するということだから。

リクルートには「Will-Can-Must」というミッションマネジメントの仕組みがありますが、もし自分のやりたいこと(Will)、強み(Can)、やるべきこと(Must)がつなげられずに、周りに認められて偉くなるためだけに働いていたら、特に人生の後半になるほどつらくなって、楽しめなくなっていくと思います。特に変化が激しく正解のないこれからの世界では、自分、チーム、世の中にとってベストだと信じることをやっていくしかないから、未来のリーダーたちには、情熱を注げる仕事を見つけて、それに向き合い続けることが求められるようにもなっていくでしょう。みんなもっとわがままに生きて、情熱を注げる仕事を見つけてもらいたいし、それができる環境をつくることが、僕の役割だと思っています。

株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO 出木場 久征

出木場 久征(いでこば ひさゆき)

株式会社リクルートホールディングス代表取締役社長 兼 CEO

1999年リクルートに入社。『カーセンサー』の営業を経て、『じゃらん』『ホットペッパービューティー』など販促系事業のオンライン化や、ネットビジネスに適した組織開発に従事。2012年リクルートホールディングス執行役員に就任。2013年Indeed CEOを兼任。2016年リクルートホールディングス常務執行役員、グローバルオンラインHR SBU(現HRテクノロジーSBU)長に。2019年取締役 兼 専務執行役員、2020年取締役 兼 副社長執行役員を経て、2021年4月より現職

2024年09月30日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。