2025年1月、世界各国のリーダーがスイスのダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に集まり、世界の労働市場に影響を与える重要な課題について議論を交わしました。リクルートホールディングス代表取締役社長兼CEOの出木場 久征も各種セッションに登壇し、仕事の進化、労働力不足、人工知能(AI)による変革について見解を提供しました。
求人数が労働者数を上回る日は遠くない
リクルートグループは、グローバル規模の求人・採用関連のデータから、仕事の進化をダイレクトに把握しています。出木場は労働市場のトレンドとして、多くの先進国市場で、労働人口の高齢化と移民の制限が労働力不足の一因になっている点を強調しました。定年退職する労働者が増えていく一方、労働市場に参加してくる若い労働者は減少していき、労働人口全体が縮小していく見込みなのです。世界銀行によると、日本、ユーロ圏、中国では、すでに生産年齢人口(25歳~54歳)の割合が減少に転じています。
求人数が労働者数を上回る日が迫りつつあります。米国ではこの傾向が特に顕著で、求人広告数は依然としてコロナ禍前を上回る水準で推移しています。賃金上昇率もインフレ率を上回っており、コロナ禍前の水準を上回る前年比3.2%のペースで堅調に推移しています。
多くの先進国では、労働人口に占める移民の割合が増加傾向にありますが、移民だけで長期的に見込まれる労働力不足を解決するのは不可能です。米国では移民が総人口の14%を占めていますが、医療や建設などの特定の業界において、すでに明らかな需給の課題が見えてきています。

「米国生まれの労働者という意味でいうと、米国の労働人口はあまり増加していません。米国の労働人口自体はここ5年間で400万人増えてはいますが、そのうち90%は移民なんです」と、世界経済フォーラムの公式セッション「Redrawing the Geography of Jobs(雇用の地理的再編)」で述べる出木場
スキル重視の採用が人材確保のカギ
ダボス会議で出木場は、この長期的な労働力不足に直面する企業が成長を確実なものにしていくには、AIを活用して生産性を向上すること、そしてより幅広い人材プールにアプローチして人材を確保していくことが欠かせないと語りました。特に、学歴などの従来の要件に囚われず、スキルに焦点を当てることで、企業はより多くの人材にリーチできることを強調しました。従来の要件によって労働市場から締め出されている人材が相当数いるため、スキルファーストの採用へのシフトは極めて重要だと言えるでしょう。
例えば、米国では労働人口の中でも多くの方が、従来の採用慣習によって労働市場から締め出されています。60%以上の人が学士号を持たず、4人に1人が何らかの障害を抱えており、7,700万人が犯罪歴を持っているのです。企業が採用基準を広げて、こういった人材にもアプローチしていくことが必要です。

「企業にとっては、今が自社の採用要件を見直す格好の機会」と、Future of Jobs Report 2025のメディア向け説明会でコメントする出木場
生成AIはほぼすべての仕事を変えるが、すぐに人間に取って代わることはない
仕事の未来を大きく変えるであろう生成AIの持つ可能性と労働市場への影響についても、出木場は各種セッションを通して、以下の点を強調しました。
生成AIは人間を強化するが、代替はしない:現在の生成AIは、単純作業を自動化して生産性を向上させることはできるが、複雑な問題解決や実務においては、人間の専門知識が依然として不可欠。Indeed Hiring Labが分析した2,800以上の業務スキルの中で、現在存在する生成AIツールによって完全に代替される可能性が「非常に高い」とされたスキルはゼロだった。また、分析したスキルの3分の2以上は生成AIによって代替される可能性が低いとされ、人間の専門知識に対する継続的なニーズが明らかに。
AIは新たな仕事を生みだす:新しいテクノロジーはまったく新しい仕事も生み出す。生成AIに言及した求人広告は、2022年後半のChatGPT導入以前はほぼゼロだったが、現在ではIndeed上の全求人広告のうち米国で0.2%、英国では0.3%に増加。
この急速に変化する市場では、「企業が今採れる最善策は、変化に備えること」であると出木場は語りました。また、テクノロジーの進化が急速に進む中、「働く人たちは、新しいテクノロジーやスキルに対してオープンで柔軟な姿勢を維持することが大切」と語りました。
Future of Jobs Report 2025に関するメディア向け説明会でも出木場は、「10代の娘を2人持つ父親として、今後どのようなスキルを習得すべきか、娘たちにいいアドバイスをしてあげたいなと思うんですが、データはあらゆる職種の要件が急速に変化していることを示していて、本当に難しい。だから娘たちには、求められるスキルの変化にオープンでいるよう伝えています。前向きでいることが大切だと思うんです。このアドバイスは、誰にでも当てはまると思います。特に今後3~5年は、AIによってあらゆる分野の職務要件が劇的に変化していくでしょうから」と語りました。
リクルートグループはデータで企業と労働者の両方に力を与えていく
本年の世界経済フォーラム年次総会でリクルートグループは、グローバル経済の深い理解を可能にする自社のデータを活かし、労働市場で始まった「労働人口の減少」と「AIの活用による生産性向上の機会の増加」のせめぎ合いという新たな状況を共有しました。
リクルートグループはこれからも、仕事の未来に備えるための知見とデータを提供し、働く人たちにも企業にも力を与えていきます。さらに、AIを活用して採用プロセスをよりシンプルにし、企業の人材獲得、働く人の機会との出会いをサポートし続けていきます。
関連リンク
Redrawing the Geography of Jobs > World Economic Forum Annual Meeting(英語サイト)
Media Briefing: Future of Jobs Report 2025 > World Economic Forum Annual Meeting(英語サイト)
Leveraging AI and Labor Insights for the Future of Work(英語サイト)
出木場 久征 | 役員紹介 | 企業情報 | リクルートホールディングス