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個人の成果を、組織全体の力に変える仕組み──リクルートの「経営コンピタンス研究所」とナレッジ共有イベント「FORUM」

「リクルートは企業文化そのものが競争力です。企業文化はシステムではないため、模倣困難性も著しく高い」──リクルートホールディングス代表取締役会長 兼 取締役会議長の峰岸真澄は、2017年、インタビューでこう語っています(発言当時は代表取締役社長 兼 CEO)。

「情報」という形のないものを扱い、マッチングという提供価値をさまざまな業界に提供してきたリクルートは、企業文化の根底にある価値観(新しい価値の創造、個の尊重、社会への貢献)を仕組みや日々のマネジメントに宿らせ、従業員の行動変容と実践を通じてビジネス上の競争優位性を構築してきました。

この、行動変容と実践を加速させる手段のひとつが、ナレッジマネジメントです。日々の業務のなかで個人が見つけた解決策を、個人や一部組織の経験に閉じず、組織全体で活用する仕組みとはどのようなものか。この仕組みを支えている「リクルート経営コンピタンス研究所」と、代表的な取り組み「FORUM」を例に、お伝えします。

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専門組織、リクルート経営コンピタンス研究所

1960年に始まり、情報誌上で個人カスタマーと企業クライアントをマッチングするビジネスモデルを展開してきたリクルート。メーカーのように技術特許などもないこのビジネスを継続的に成長させていくためには、従業員が経験学習的に体得しているやり方を「技術」として共通言語化・体系化し、組織と人の成長の仕組みを作ることが重要でした。1990年代、社内の事例をベースに、情報誌編集、営業活動、マネジメントなどの「技術」を言語化する取り組みが始まり、コアなものは「コンピテンシー」と定義し、社内向けに研修プログラム化されていきます。と同時に、環境変化のスピードが加速していくなか、新たなコンピテンシーをいち早く見つけ横展開する手法として、ナレッジマネジメントの可能性が模索され始めていました。

そんななか2004年に発足した専門組織が、リクルート経営コンピタンス研究所です。リクルートのビジネスを継続的に成長させていくことを目的に、コアコンピタンスをアップデートし、経営戦略の推進支援と事業戦略の実行支援を行う。一般的な人事研修組織でも社外向けのアカデミアでもない、そして「研究」は目的ではなく手段という、ユニークな専門組織が誕生したのです。以来、事業や職種の壁を越えて成功パターンを見つけ出し、転用可能な形(≒コンピタンス)にする、という機能を専門的に磨き続けてきました。その成果は、次世代経営者の育成、事業ミッションの言語化などさまざまな形で社内に還元されてきましたが、とりわけ「FORUM」は、最も長く続く、従業員に開かれた代表的な施策の一例です。

職種・事業の壁を越えて知を循環させる仕組み

日本のリクルートグループでは毎年、約30人の従業員が壇上に立ち、自らの成功事例を惜しみなく明かします。表彰式のようにスポットライトを浴びるだけの場ではなく、「どうやってその成果を生み出したのか」を語り、誰もが再現できる形にして共有する場──それが「FORUM」です。

リクルートのナレッジシェアイベントFORUMのプレゼン収録風景

ナレッジプレゼン収録風景。このあとスライドと合成され配信される

「FORUM」の原型は2008年、営業職が担当事業の垣根を越えて成功事例を発表した「TOPGUN AWARD」に遡ります。2015年には、エンジニア職、経営スタッフ職、プロダクト担当・事業開発職を加えた4部門制の「FORUM」として拡大。現在は国内の約1万7,000名の従業員が対象となっています。

毎年、各事業部内の選抜を経て事務局に届く応募は約160件。各部門の責任者(Vice President)や役員による社内審査と、社外有識者の審議員による議論を経て、30〜40件程度が最終選出されます。ここから始まるのが「ナレッジ化」の工程です。リクルート経営コンピタンス研究所のメンバーが選出者に深く関わり、事業特有の成功事例を、事業や職種を横断して転用できる形へと抽象化、フレームワーク化していきます。

リクルート経営コンピタンス研究所を率いる島雄輝は、「FORUM」の意義をこう語ります。

「リクルートグループでは、同じ事業・職種内ですぐに使えるものを『ノウハウ・Tips』、長く・幅広く使えるものを『ナレッジ』と区別しています。『FORUM』は後者を意図的に生み出し、再現性を高め、循環させるための仕組み。経営側から見れば『戦略推進の見本市』であり『次世代人材の抽出の場』、従業員からすると日々の仕事に役立つ『スキルアップの場』であり『憧れの場』としても機能しているのです。」

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成功パターンを独り占めしないことが評価される文化

ナレッジ共有の仕組みにおいて、しばしば疑問視されるのは「なぜわざわざ自分の強みを明かすのか」という点です。島は、「ナレッジを共有するほうが格好いい、という企業文化に尽きると思う」と語ります。リクルートでは、高い成果を上げた個人が再び高い成果を出すよりも、自らの成功パターンを型化し横展開して組織全体の成果につなげる人材のほうが尊敬され、高く評価される傾向にあるというのです。

「FORUM」はこの価値観を体現する場として設計されており、経営陣からの一方的な表彰ではなく、視聴した従業員同士の称賛によって成り立つ場として機能することが強く意識されています。

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発表を「実践」につなげる仕組み

「FORUM」はイベントで発表したら終わりではありません。発表は全てアーカイブされ、これまでに蓄積された500件超の動画を通じて、従業員はいつでも過去のナレッジにアクセスできます。また、案件への理解を深めるために、案件ごとに詳細なQAに回答できるAIチャットや発表者とコネクトできる機会が設けられており、発表後も議論が継続する仕組みです。

実際に、警備業界との協業に関する発表を視聴した総務担当者が発表者に直接連絡を取り、2日後には社内での「座哨警備」の取り組みが実現した事例もありました。この取り組みは警備員の足腰の負担軽減や定着率やモチベーションの向上、そして警備サービス向上にも寄与する成果が見られ、現在でもリクルートのオフィス警備のスタンダードとなっています。

リクルートのナレッジシェアイベントFORUMのイントラサイトの画面イメージ

社内イントラの特設サイト。過去プレゼン動画も見放題

さらに近年は、「FORUM」に登壇した従業員にアドバイスをもらえる場を設け、顧客接点職とデータサイエンティストが協業・相談できる機会を提供したり、関連するテーマの発表を束ねて研修化したりする取り組みも進めています。例えば、プロダクト領域における複数のプロジェクトマネジメント事例をひとつのワークショップとして再構成するなど、抽象化されたナレッジをより実践しやすい形に翻訳する取り組みを追加しています。島は、「その時々のリクルートグループにとってベストなナレッジ共有、そして従業員への機会提供の在り方を見出せるよう、この仕組み自体を進化させていきたい」と今後の発展に意気込みます。

コングロマリットなリクルートの特徴を強みに変える

「FORUM」に代表されるように、経営コンピタンス研究所が伝えているのはナレッジだけではなく、ナレッジを共有し合う文化そのものです。そのこだわりを、島は自身の体験も重ねてこう語ります。

「かつて私は、リクルートのなかで事業撤退という辛い体験をしました。その際に私に勇気を与えてくれたのは、大先輩たちの過去の経験談でした。私たちの経験は、言葉にして残した瞬間から、自分ひとりのものではなくなります。成功事例はもちろん、たとえプロジェクトが志半ばで終わったとしても、その過程で得られた気づきは、必ず次に挑む誰かのヒントになる。成功も失敗も事実を直視し、ナレッジを泥臭く残し続ける、その積み重ねこそが、リクルートの提供価値をアップデートし続ける原動力になると確信しています。」

多様な事業・職種で生まれる知を組織全体の学習につなぎ、そこから新たな実践を生む仕組み。これは、複数の事業がそれぞれの成長カーブを描きながら存在しているリクルートにとっては、コングロマリットな状態を強みに変える核心部とも言えるでしょう。この仕組みによって、リクルートはこれからも、企業文化を競争力につなぎこみながら、前進していきます。

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株式会社リクルート リクルート経営コンピタンス研究所 室長 島 雄輝

島 雄輝(しま・ゆうき)

株式会社リクルート リクルート経営コンピタンス研究所 室長

大学卒業後リクルートに2007年入社。事業開発室の『R25』編集部に配属。関連メディアの立ち上げやプロモーションに携わり、『R25』編集長、メディアプランニング部長、営業部長、事業開発室長などを歴任。2017年よりリクルート経営コンピタンス研究所にてナレッジマネジメントに携わり、2026年より現職

2026年10月22日

※事業内容や所属などは記事発行時のものです。