Investor Update FY2023の最終日Day 3のテーマは、リクルートグループのサステナビリティの戦略であるProsper Together。この取り組みをリードするリクルートホールディングス取締役 兼 常務執行役員 兼 COOの瀬名波文野が、サステナビリティ委員会の社外委員であるAron Cramer氏、Yves Serra氏、本田桂子氏(社外取締役)とともに、サステナビリティ戦略の進化とガバナンスの強化に向けて、年2回の委員会ではどのような議論が行われているのか、今後どのような挑戦に取り組んでいくのかについてお話しました。
世界の潮流を踏まえた委員会の議論、グループ全体を巻き込んだ実現
パネルディスカッション形式で進んだ今回のイベントでは、まず、リクルートホールディングスのサステナビリティ委員会で印象に残った議論について、社外委員3名に聞きました。
まず、スイスに本社を置き、世界で水などの輸送に使用されるパイピングシステムを製造する会社で、2020年のWall Street Journalでは「最も持続可能な企業ランキング」で世界9位にランクインしたGeorg FischerのChairmanであるYves Serra氏は、労働市場で学歴、犯罪歴、障がいや軍隊経験など様々な障壁に直面する求職者累計3,000万人の就業を支援するという目標のスコープに関する議論を挙げました。Serra氏は、「私は、11月の第1回委員会で、世界に貢献するには、欧州中心に社会問題となっている難民のカテゴリも、障壁に含めるべきではないかと指摘しました。その結果、3月の第2回委員会では、難民も3000万人の目標に含める検討が既に進んでいるという報告がありました」と述べ、社外委員の意見を大切にして、オープンな議論が行われている印象を受けたと語りました。これに対し瀬名波は、グループの内で進めていた数多くの難民向けの取り組みを、この目標の中で再整理することができた、とSerra氏のアドバイスへの感謝を伝えました。
リクルートホールディングスのサステナビリティ委員会社外委員を務めるYves Serra氏
次に、世界で300社を超える会員企業に対してサステナビリティに関するコンサルティングサービスを提供する非営利団体BSRのPresident 兼 CEOであるAron Cramer氏は、印象に残った議論として、自社の事業活動およびバリューチェーン全体を通じたカーボンニュートラルの達成という目標を挙げました。Cramer氏は、リクルートグループは、製造業のように温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)排出量が大きいわけではないという前置きをした上で、「特に重要だと思うのが、カーボンクレジットに関する議論です。多くの企業がカーボンクレジットを使っていますが、その入手可能性や価格、有用性が疑問視され始めています。そういった意味でも、カーボンクレジットの利用から徐々に脱却し、実質的なGHG排出量の削減に取り組まなければいけない」とコメント。さらにCramer氏は、もう一つ印象的な議題としてESG格付けを挙げ、「ここ数年で、多くの格付けにおいてスコアを右肩上がりに向上させてきたことが印象的です」と述べ、特定の格付けに偏ることなく多くの格付けで高い評価を獲得していること、さらにグループ全体を巻き込んでこれを実現したことを評価しました。
リクルートホールディングスのサステナビリティ委員会社外委員を務めるAron Cramer氏
最後に、外資金融機関やマッキンゼーを経て、世界銀行グループの多数国間投資保証機関MIGAにおいて長官やCEOを務めたのち、現在はコロンビア大学でESG投資に関する客員教授・上級研究員、リクルートホールディングス等の社外取締役も務める本田桂子氏は、「サステナビリティ目標を設定してから3年間の振り返り」の議論を挙げ、「5つの目標すべてについて進捗があった。これはすごいことだと思います」とコメントした。これに対して瀬名波は、「昨年7月のFireside Chatでは、進捗にやや遅れがある目標についてもかなり赤裸々に、何が課題で、何が難しいのかをシェアさせて頂いた。後日、ある機関投資家の方から『高い理想を掲げているから、できないこともある。難しいところも正直に話してくれるところも含めて、今後楽しみにしています。地に足が付いていて、リアルな感じがしていいなと思いました』と言われたことが心に残っています」と付け加えました。
リクルートホールディングスの社外取締役とサステナビリティ委員会社外委員を務める本田 桂子氏
今後は、サステナビリティ目標と事業成長の接続強化、情報開示規制対応とAIが重要テーマ
次に、今後リクルートグループにとって重要となるサステナビリティのテーマは何か、それぞれの社外委員に聞きました。
まず、本田氏が「サステナビリティの取り組みを企業価値の向上にリンクさせること」を重要テーマとして挙げました。本田氏は「サステナビリティはまだ定義が定まっておらず、多くの企業が自分たちなりの解釈をしており、自社ができる社会にいいこと、という目線で語られることが多いですが、リクルートグループにはもう一歩その先を行って頂きたい。リクルートができる取り組みの中で、ビジネスのど真ん中で企業価値の向上にリンクできるものをやって頂きたい」と期待を語りました。特にリクルートグループのソーシャルインパクト目標である就業までに掛かる時間を約半分に短縮するについて、「求職者は3か月仕事がないと家計が厳しくなって貧困に陥ってしまう方々がいたり、一方で雇用主側は人手不足が世界的な大問題になっている。つまり、人がいないから事業ができないとか、逸失する利益があるという状態になっている。ここがブレイクスルーできれば、多くの先進国、ひいては発展途上国でも、プラスになると思っています」と、大きな可能性を指摘しました。これに対して瀬名波は、「仕事探しの時間が半分になるということは、マッチングの効率が倍になるということなので、願わくばマネタイズ(収益化)の機会も倍、もしくは倍以上になるといいなということも踏まえて目標設定をしています」と説明したうえで、「少しずつ進捗していますので、5月のアップデートをお待ちいただければと思います」と述べました。
次に、Cramer氏は「国際的なサステナビリティ情報開示規制への対応」と「AIと人権」の2つのテーマを挙げました。まずCramer氏は、開示規制への対応は数年にわたって取り組むものになると述べた上で、「リクルートが、他の企業よりも早く規制の内容を理解し、規制を先回りして準備していくことが今まで以上に重要になる、と議論されていましたね」と話しました。さらに、「もちろん法律にコンプライすることは重要で必要なことですが、それだけでは十分ではありません。リクルートは法規制の変化への対応に止まらず、その法規制がどのような理念のもとに作られているのかを考えながら、法規制への対応を通して、どのように自社の志をより高め、戦略をより伝えることができるのか、ということも考えているように思います」とCramer氏。これに対して瀬名波は、「その点は極めて重要だと思っています。もちろん法令遵守は重視しなくてはなりませんが、同時に規制当局や体制の意図を理解して、企業市民として適切に対応していくことが必要だと思っています」と応えました。続いて、AIと人権というテーマについてCramer氏は、「既にサステナビリティ委員会でも全社でも重要アジェンダに含まれていますが、求職者と企業のより良いプロダクトを提供する機会につながるという意味で、Indeedの事業に大きく関係するテーマです」と強調。瀬名波も「私たちはユニークなデータを持っています。特にIndeedは世界60か国以上の、幅広い仕事についてのデータを持っていて、それをマッチングの向上に活用しています。これについては引き続きステークホルダーとのオープンな対話を続けていきます」と応えました。
最後に、Serra氏も、本田氏とCramer氏と同様に、「目標を達成しながら、いかにマネタイズに結びつけていくか」がカギになるとし、さらに「ヨーロッパを中心に、サステナビリティ情報開示やAIの規制が厳しくなっていくなかで、それにうまく対応していくこと」も重要だと付け加えました。
瀬名波は、「AIや規制対応については、今日もそうですし、委員会においても、いろいろなコメントを頂きました。優先順位をつけて、我々にとってより大事なことにどうやってエネルギーと時間を集中させていくかということが、非常に大事なポイントだと思っています。引き続き事業の真ん中で、どうやってプロダクトの進化を進めていきながら、社会にインパクトを出していけるか。それによって、我々も中長期的に成長していけるか。それを真ん中に据えて議論をしていきたいと思っています」とまとめました。
リクルートホールディングス取締役 兼 常務執行役員 兼 COOの瀬名波文野
忌憚ない意見が飛び交ったQ&Aセッション
続いて質疑応答が行われました。投資家の皆さんからのご質問に瀬名波とサステナビリティ委員が回答した内容をダイジェストでお伝えします。
Q. 責任あるAI活用が話題になっており、欧州ではAI Actの施行も決議されました。リクルートグループではどのような方針や体制でどのような対応をしているのか?
瀬名波:テクノロジーの進化の方が早いので、ルールができたからといってそれにコンプライしてるだけだと十分でない可能性があります。丁寧に複眼的に議論するために、サステナビリティ委員会だけでなくリスクマネジメント委員会でも諮問をしたうえで、取締役会で議論する体制を取っている。また、リクルートグループの人権方針に基づいて、IndeedがAI方針を、リクルート社がAI活用指針を定めたりと、各事業が指針や方針を出したことは今期の進捗だと言えます。一方で、例えば、日本の人材斡旋事業において、AIの方が年齢に対するバイアスが少ないという結果が出るなど、AIが人間よりもバイアスが少ないという夢が持てるような兆しも出てきている。どのように責任あるAI活用をするかということと併せて、テクノロジーを活用してむしろバイアスを減らすということについても、我々も学びながら探求していきたい。
Cramer氏:リクルートグループ、そしてどの企業にとっても重要な要素を3つ挙げたい。1つ目は、個社としてできることを、投資家との議論も交えながら進めていくこと。2つ目は競合関係などに縛られずに業界としてのエコシステムを作っていくこと。ガイドラインや方針を作っていくことには、他の同業企業も高い関心を持っているはず。3つ目に、企業も政策策定プロセスに関与していくこと。政策立案者は、実際に開発に関わっている技術者ほどテクノロジーの理解が高くないので、社会的な期待値に合わせて、どのように柔軟性のあるガイドラインや方針というものを設定すればいいのかを決めるにあたって、企業は重要な役割を担うべきだと考える。
Q.取締役会や各委員会において、社外取締役や社外委員は発言・貢献できているのか?元経営者や現経営者が多い中で、執行のように議論してしまったり、監督の役割を果たせていないといったリスクはないのか?企業価値向上のために社外取締役、社外委員はどのように貢献しているのか?
瀬名波:いろんなところで執行されてきた皆さんだからこそのアドバイスとかご意見は、逆に厳しいということも含めて、非常に価値を感じているというのが正直なところ。あともう1つ、あまり外に言っていないが、実は結構大事にしているのが、取締役会の諮問機関である委員会。サステナビリティ委員会の皆さんは今日ここに来て頂いている通りですし、指名委員会と報酬委員会も委員長が社外独立取締役で、構成員も社外独立の役員の方がマジョリティー、執行側はマイノリティにしている。本当に、良い意味で、誰も忖度なんかしてくれませんので、めちゃくちゃ監督いただいてるという感覚が、執行側からするとある。
本田氏:リクルートの取締役会が日本の大手企業と大きく違うポイントが2つある。1つは、いわゆる弁護士さんとか公認会計士さんといった方が取締役の中にはいないこと。もう1つは、社外メンバーも社内メンバーも多様性に富んでいて、性別も国籍もさまざまで年齢層も幅広い。一部プライム大手企業は、60代から70、80代が多いですが、リクルートは40代から70代まで。出身大学も高校もかなり広範にわたっている。だから、阿吽の呼吸で物事は決まらない。事務局は大変だと思うが、投資家の方に安心いただけるような、忌憚ない意見が多く出て、激論が交わされている。
瀬名波:多様性に富んだ意見が出るので、粗く言えば発散するとか意見がすり合わないこともあるが、このコミュニケーションコストは多様性のコストだと思っている。元々が違う意見でも、みんなで議論して一旦決めたらそれにコミットするというのが実は結構大事なポイントで、それが取締役会でも皆さんとできてるというのが実はシークレットソースなのだと思っている。
Q.IndeedのPay per Application(PPA)が終了した。PPAはソーシャルインパクト目標である「就業までに掛かる時間を半分にする」取組みの一つとしても紹介されていたが、この目標達成に影響はあるのか?
瀬名波:応募に対して課金するというモデル(PPA)をテストして、比較的良かったので、さらに大規模でテストをしていた。しかし、我々の意図していたのと少し違う使われ方をしてしまったこともあって提供を終了した。PPAを使われたお客様は採用にかかる時間が短くなってたということもあり、サステナビリティの目標にも影響するはずだと思うが大丈夫か、というのがご質問の意図と理解している。Indeedでは、常に500ぐらいのA/Bテストが常時行われているような状態で、PPAもテストの1つ。とはいえすごく大きなテストの1つだった。今後もプロダクトの進化に向けて引き続きたくさんのテストをしていくし、このようなトライアンドエラー(試行錯誤)の中でより良い形になっていくものをピックして、更に大きなテストにして、という風にしていくことが大事だと思っている。皆さんには、PPAに代わる良いテストの結果をどこかのタイミングではシェアできると思うので、楽しみにしていて頂きたい。
サステナビリティ目標の進捗とその事業成長への貢献にぜひ注目を
イベントの最後に、リクルートグループの取り組みの今後の注目ポイントを各社外委員に聞きました。
Cramer氏:リクルートは、志高く、謙虚に、そして事業との連関にフォーカスして、これからも取り組みを続けていくでしょう。
Serra氏:短期間でサステナビリティをうまく経営戦略に統合できて、その実現に向けて会社全体を動かしている。すばらしい。この方法で、しっかり続けていってほしい。
本田氏:雇用は、収入を得るという観点でも大事だが、人が自己実現するうえで非常に大事だと思っている。そういう意味で、この大事なソーシャルファクターの一つが、企業価値にポジティブな影響を与える可能性の高い、数少ない企業だと思っているので、本当に楽しみにしている。
ぜひ録画でもイベントの様子をご覧ください。