SDGパートナーズ 代表取締役CEO 田瀬和夫氏
その議論の結果、リクルートグループとしてどのようにSDGsの達成に貢献していくと考えているかは、リクルートホールディングスのウェブサイト上にあるSDGsへの貢献というページで宣言されていますが、その中で特筆すべきポイントは以下の3点だと田瀬氏は言います。
まず、リクルートグループは、SDGsの前文で宣言されている「すべての人が一層大きな自由を追求できる社会に向けて、誰一人取り残されないようにする」というビジョンを共有し、その実現を目指していくと宣言したこと。田瀬氏は、「SDGsのそれぞれのアイコンについて、自分たちの事業がどれに関連があるかという観点で使っている会社は多くありますが、前文で語られる文言にまで言及し、企業理念とのアラインメントや共感を示している企業は恐らく他にないでしょう」と言います。また、「SDGsが掲げる17の目標は互いにリンクしています。あるひとつの課題を解決することで、ドミノ倒しのように複数の目標達成が連鎖することも。SDGsの一つひとつの目標の実現を超えたところに、私たちが2030年に目指す未来があるのではないでしょうか」と全体観を持って取り組む必要性を強調。そして「前文にある『一層大きな自由』は、多くの選択肢から自分らしい生き方を選ぶ機会がある未来を目指すリクルートグループのビジョン、Follow your heartとぴったり合致している。マイノリティや発展途上国の子どもたちだけではなく、全ての“人”。他人事などありえません」と、リクルートグループは、全体観を持って、自分事としてSDGsを捉えていると田瀬氏は付け加えました。
次に、事業を通じて、なかでもまずはリクルートが創業以来取り組んできており最も大きな影響力を発揮できる「仕事探し」において、SDGsの実現に貢献すると宣言したこと。「様々な事業を持つリクルートグループですが、まずは人々の収入の基盤となる『仕事』の領域で、事業を通じて貢献していくということが決められました。『リクルートグループが有するあらゆるデータやテクノロジー、ノウハウを集結して、イノベーションを創出し、より便利で公平かつインクルーシブな仕事探しのインフラを世界中の求職者に提供していく』ことも具体的に表明しています。企業はともすれば、根幹のビジネスとは離れたところにあるCSR活動を取り上げて『これはSDGsの何番の目標に貢献している』というアピールをしてしまいがちなのですが、それらとは全く違う。一番スケーラブルな事業の本丸のところでインパクトを出していくという、国連が理想とする企業のSDGsへの関わり方を、リクルートグループは体現していると思います」と田瀬氏。
さらに、こうして定めたビジョンの実現に向けて経営と事業を革新するための計画として、2030年度に向けたサステナビリティへのコミットメントを発表し、その実現に向けた取り組みを通してSDGsの達成に貢献すると宣言していること。このサステナビリティコミットメントは、リクルートグループの3つの経営戦略の一つにも据えられており、具体的な目標としては2030年度までに就業までに掛かる時間を2021年度比で半分にすること、障壁に直面する3000万人の採用を実現すること、従業員・管理職・上級管理職・取締役会構成員の約50%を女性とすること、バリューチェーン全体でカーボンニュートラル達成を目指すことの4つを掲げています。田瀬氏は「それぞれのサステナビリティ目標に事業を通じて取り組むことが、すなわちSDGsの達成に貢献するという構造になっています。スタートから3年が経過した今、具体的な成果のアップデートを、道半ばな困難も含めて経営者が自ら透明性高くライブイベントなどで発信しているのもいいですね」と語りました。
田瀬氏は、「全てのビジネスはソーシャルビジネスでなくてはなりません。利益を得ながら社会に善をなすものであればこそ持続するもの。組織や事業のど真ん中で、利益を上げながら社会的インパクトを出していく。そんなサステナブルな経営を、リクルートグループなら体現していけると信じています」と、リクルートグループへの期待を語りました。
2024年9月にニューヨークで開催される国連の「未来サミット」では、SDGsの進捗を加速し、再び軌道に乗せるための議論が行われる見込みです。このなかで、リクルートグループに関連して注目したいのが、繁栄の度合いとその進捗を測定する指標の見直しについての議論だと田瀬氏は言います。「SDGsが究極的に目指す状態に『すべての生命が繁栄し、すべての人が身体的、精神的、社会的によく生きられる(ウェルビーイング)』というものがあります。この状態を測るには、開発や企業活動による経済成長だけでなく、そのコストとして発生する人や地球へのネガティブな影響も捉える必要がありますが、これまで指標としてきた国内総生産(GDP)ではそれは測定できない。そこで、GDPを補完する指標としてウェルビーイングを採用すべきではないかという議論が起きています。ウェルビーイングというのは、貨幣価値とは違って非常に主観的なもので、人の心の問題です。実は国連もはっきり定義はしていません。しかし、ウェルビーイング測定の取り組みを進めている企業は既にあり、リクルートグループもその一つ。Indeedが職場におけるウェルビーイングのスコア(Work Wellbeing Score)をいくつかの国で出していますよね。そういった面でも、リクルートグループが持つデータやテクノロジー、ノウハウを活かして、SDGsに貢献していってほしいと思います。『ディーセント・ワーク(decent work、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事)』を超えた『楽しくやりがいのある仕事』とのマッチングを実現することで職場のウェルビーイングを上げていくなど、そんなわくわくするような取り組みを、リクルートグループには期待しています」と、新たな分野での貢献にも期待を示しました。
リクルートグループのSDGsへの貢献については、以下の説明動画もぜひご覧ください。
リクルートグループのビジョンとSDGsへのコミットメント(英語のみ)
田瀬和夫
SDGパートナーズ有限会社 代表取締役CEO
1992年外務省に入省し、国連政策課、人権難民課、アフリカ二課、国連行政課、国連日本政府代表部一等書記官等を歴任。2001年より2年間は、緒方貞子氏の補佐官として「人間の安全保障委員会」事務局勤務。2005年より国際連合事務局・人間の安全保障ユニット課長、2010年より3年間はパキスタンにて国連広報センター長を務める。2014年にデロイトトーマツコンサルティング執行役員に就任し、CSR・SDGs推進室を立ち上げ、企業のサステイナビリティ強化支援を手がけた。2017年に独立し、SDGパートナーズならびにSDGインパクツを設立し、企業のサステナビリティ方針全体の策定と実施支援、SDGsの実装支援、統合報告書の設計支援、ESGと情報開示支援、自治体と中小企業へのSDGs戦略立案・実施支援などを行っている。プライベートでも、8,500人以上のメンバーを擁する「国連フォーラム」の共同代表を2004年より務めたり、2023年にサステナビリティにこだわったNY発のカフェTHINK COFFEEの日本第一号店をオープンするなど、多方面で活躍している